東名高速道路の追い越し車線で車を停止させ、後続の車もやむなく停車。
そこでトラックが突っ込んで2人が死亡した事件は、いわゆるあおり運転の多さを世間に知らしめる原因となりました。
最初に車を停車させた容疑者は「過失運転致死傷罪」で逮捕となりました。
市民感覚からすれば「危険運転致死傷罪」容疑で逮捕が当たり前だとなるのですが、危険運転致死傷での立件はハードルが高すぎるそうです。
2人が死亡した直接の原因はトラックによる追突だからが理由だそうですが、これに納得できる人はあまりいないですよね。
※横浜地検は10月31日、危険運転致死傷罪と暴行罪で起訴しました。
あおり運転がクローズアップされていますが、私はある事故での判決に注目しています。
2015年5月11日に起きた事故です。
飲酒運転で自転車に乗っていた人をはね1人が死亡2人がけが、車はビルに突っ込んで止まったという事件です。
検察は当初「過失運転致死傷罪」で逮捕しましたが、世論に押される形で「危険運転致死傷罪」に切り替えて送検しました。
- 「過失運転致死傷罪」は7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金
- 「危険運転致死傷罪」は死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役刑,負傷させた場合は15年以下の懲役刑
罪の重さが全く違います。
でも立件のハードルが異常に難しいのが「危険運転致死傷罪」でもあるのです。
まずこの事故を起こした容疑者ですが、呼気からは1リットル当たり0.2mgのアルコールが検出されています。
0.15mg以上で「酒気帯び運転」となりますから検挙の対象です。
言ってみれば検挙の対象になるほどのアルコールを摂取していたことになります。
しかし飲酒による「危険運転致死傷罪」を立証するには
- アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
- アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの
が求められます。
ここには呼気に含まれるアルコール濃度については触れられていません。
つまり「酒気帯び運転」に該当するアルコール濃度であるだけでは該当しないのです。
2016年11月の大阪地裁での判決は、
「不注意によるものであり、とりわけ悪質なものとまではいえない」
として飲酒の影響を認めず、事故原因は運転ミスだったとしたのです。
そして2017年10月5日大阪高裁は地裁判決を支持する判決を下し、10月18日には大阪高検は上告を断念しました。
「上告理由を見いだせない」というのが理由だそうです。
ちなみに判決は懲役3年6か月ですから、「過失運転致死傷罪」の上限のちょうど半分です。
飲酒運転が危険だということは周知の事実です。
体重70㎏の人がアルコール濃度5%のビールを飲んだ場合、350ml飲むと呼気中のアルコール濃度が0.15mgを超えます。
0.15mg以下しか検出されなければ大丈夫なのではなく、検挙されないだけで自動車の運転はダメです。
今回の容疑者は0.2mgのアルコールが呼気から検出されていますから、酒気帯び運転だったことは間違いありません。
でも
「不注意によるものであり、とりわけ悪質なものとまではいえない」
という判決が地裁で出され、高裁もそれを支持しました。
普通に考えれば、もし「過失運転致死傷罪」でしか問えないのであれば、「酒気帯び運転」だったことも踏まえて上限の懲役7年とすることが妥当なはず。
そして「酒気帯び運転」が分かっているのならば、それだけで「危険運転致死傷罪」に問えるように運用を変えなくては同法の意味がありません。
正常な運転ができない目安として「酒気帯び運転」は呼気1リットル当たり0.15mg以上のアルコールが含まれていれば検挙するのですから、正常な運転ができない状態だったとして「危険運転致死傷罪」を適用することは何の矛盾もないはずです。
個人的な意見としては
「お酒をほんの少しでも飲んで車を運転する行為自体が、かなり悪質な行為である」
と思っています。
なので大阪地裁や高裁で
「不注意によるものであり、とりわけ悪質なものとまではいえない」
という判決自体が的外れだと言わざるを得ないのです。
東名高速道路での2人が死亡した事件でも「過失運転致死傷罪」しか適用できないようです。
「危険運転致死傷罪」には
人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
と規定があり通行妨害目的で走行中の車の直前に進入には該当するはずですが、「運転する行為」が対象となるので難しいらしいです。
なので「危険運転致死傷罪」には次のような項目を入れて頂きたいのです。
- 酒気帯び運転に該当する場合は飲酒による影響があったものとする。
- 通行妨害目的で走行中の車の直前に進入したり停止させたりする行為によって、結果的に被害がある場合には同法を適用する。
そして
- ひき逃げについては特段の事情がない限り、「危険運転致死傷罪」を適用する。
このくらいの事なら何も問題はないと思うのですが、いかがなものでしょうか。